本間医師 新型コロナウイルスについて その6

治療薬として注目を浴びているファビピラビル(商品名アビガン)について

 

本日は、現在、新型コロナウイルスの感染拡大の不安が広まる中、様々な情報が出回っており、とても注目されている抗ウイルス薬であるファビピラビル(商品名アビガン)について詳しく解説します。

 

この薬は、これまでインフルエンザに対してだけ適応が認められている薬剤で、他の治療薬が無効なインフルエンザが発生し、国が使用すると判断した場合のみ投与することが可能な薬剤でした。今回の新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大より、厚生労働省は2/22から2医療機関で投与を開始、今後、全国の医療機関にも広める予定となりました。
https://www.mixonline.jp/tabid55.html?artid=68821

 

一説ではウイルス感染症のあらゆる問題を解決する救世主のようにまでもてはやされています。

 

なぜ、この薬がこんなに騒がれているのか?どんな事が期待されており、また何が懸念されているのか?などを解説します。この薬について詳しく理解する為には、ウイルス学や薬学の知識が必要になりますので、なるべく分かりやすく解説してみます。長いですので、要点だけでも把握していただけたら幸いです。

 

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この薬にはとてもたくさんのユニークな面があるのですが、最大の特徴はなんといっても次の2点にあります。
・すべてのRNAウイルスに効果が期待できる(今回の新型コロナウイルスもRNAウイルスです。他にもとても多くのウイルスやエボラウイルスなどきわめて致命率の高い凶悪なものも含みます)
・人間にはないRNAウイルスだけが持つ特別な酵素に作用するため、副作用が少ないと考えられる

 

他にも、
・全く新しい作用機序の薬である
・他の薬剤に耐性をもったウイルスにも効果を期待できる
・本剤自体に耐性ウイルスが出来にくい
などの特徴があります。これらが本当だとしたら、まさに夢のような薬になるのです。

 

開発の経緯
この薬は、最新の新薬の開発法の一つである化合物ライブラリー・スクリーニング法にて発見され、それを改良したものです。簡単に説明すると、ランダムな化合物を何万種類も用意し、薬として効果のあるものを一度にスクリーニングして選んでいくというものです。

 

初めは、インフルエンザウイルスに効果のある物質のスクリーニングで発見されました。そしてその正体がRNA依存性RNAポリメラーゼ阻害剤であったのです。難しい用語ですが、この薬を理解する為にとても重要ですので、次の作用機序のところで詳しく説明します。

 

作用機序
この薬はRNA依存性RNAポリメラーゼを阻害することで効果を発揮します。

 

ポリメラーゼとはDNAやRNAなどの遺伝子を複製(コピー)して合成する酵素です。DNAを合成する酵素をDNAポリメラーゼ、RNAを合成する酵素をRNAポリメラーゼと言います(正確には同じものをコピーするのではなく、相補的な遺伝子を複製しますが解説は省略します)。

 

その前に付いている◯◯依存性とは、遺伝子を合成するときに何を鋳型(コピー元)にするのかを示します。コピー元がDNAならDNA依存性、RNAならRNA依存性になります。

 

つまり、RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRPと略します)とはRNAからRNAを複製する酵素ということになります。

同様に、RNA依存性DNAポリメラーゼ(RdDP)はRNAからDNAを複製する酵素です。他にDNA依存性DNAポリメラーゼ(DdDP)、DNA依存性RNAポリメラーゼ(DdRP)があることになりますね。

 

遺伝子は体の設計図と言われますが、そこに書かれている情報はタンパク質の設計図なのです。タンパク質は細胞の構成部品になったり、(酵素など)様々な機能をもちます。どのようなタンパク質の組み合わせをもつかが、それぞれの生物の特徴を決めており、その設計図が遺伝子になります。

 

ヒトを含むほとんどの生物は、遺伝子としてDNAを持っています。タンパク質を作るためには、まず、DdRP が働きDNAからRNAを合成します。その後、そのRNAから(他の酵素により)タンパク質に翻訳されるのです。

DNA→RNA→タンパク質

 

また、細胞分裂のときはDdDPが働き、もとのDNAを複製します(つまりDNAからDNAを作る)。ヒトはRNAからRNAをつくる必要がないためRdRPを持ちません(最近、似たような働きをするものが発見されました Г鮖仮函法

 

今回の新型コロナウイルスもそうですが、RNAウイルスは遺伝子がRNAですから、自分自身が増える時にRNAからRNAを複製するRdRPが必要になります。

 

つまり、RdRPの重要な点は、
1)すべてのRNAウイルスが持っており、なおかつ必要な酵素である
2)たくさんのRNAウイルス間で(違いはあるが)とても構造が似ている
ということなります。


そのため、ここに作用する薬はすべてのRNAウイルスに致命的な効果を期待できます。

 

また、この薬はウイルスのRdRPの働きは阻害しますが、その他のポリメラーゼ(DdDP、DdRPなど)には作用しません。
つまり、RNAウイルスには効果を発揮しますが、ヒトの遺伝子の働きには影響を及ばさない(副作用が少ない)ことが期待されるのです。

 

じ果
まず、動物実験では、非常にたくさんのRNAウイルスに対して高い抗ウイルス効果を認めています。効果を認めたウイルスをリストアップします。


オルソミクソ科(インフルエンザウイルスA・B・Cのすべて)
ブニアウイルス科(クリミアン・コンゴ出血熱ウイルス)
アレナウイルス科(ラッサ熱ウイルス)
フィロウイルス(エボラウイルス)
ラブドウイルス科(狂犬病ウイルス)
パラミクソウイルス科(RSウイルス、メタニューロウイルス)
フラビウイルス科(ウエストナイルウイルス、黄熱病ウイルス)
トガウイルス科(ロタウイルス)
ピコルナウイルス科(ポリオウイルス、ライノウイルス)
カリシウイルス科(ノロウイルス)

 

つまり、
・ほとんどすべての科のすべてのRNAウイルスに効果を認める
・エボラ、ラッサ、クリミアン・コンゴ、黄熱病などとても凶悪なウイルスにも効果(生存率の大幅な改善)がある
・インフルエンザウイルスでは、すべての型のウイルス、さらにタミフルなどの他の薬が効かない耐性ウイルスにも効果を認める
以上のように、素晴らしい効果がみられます。

 

ただし、この薬は本来インフルエンザウイルスに対して最適化されて開発されたものですので、他ウイルスに対して同じ効果を認める為には数倍から数十倍の薬物濃度を必要とします。

 

次に、人に対する臨床試験の結果です(承認された投与量と同じではないことに注意してください)(添付文書より)。
1)第I相、II相試験
本剤を1日目1800mg×2、2〜5日目 800mg×2の投与法
→プラセボ(砂糖玉)より効果あり
本剤を1日目2400mg+600mg×2、2〜5日目 800mg×2の投与法
→プラセボと変りなし

 

2)第III相試験 
上の結果を受けて、1日目1800mg×2 2〜5日目 800mg×2の投与法で2試験を行った。
主要症状罹患期間(発熱と咳など主要6症状が続く期間)の中央値
1試験目 本剤84.2時間、プラセボ 98.6時間
つまり、14時間(半日)ほど症状が出る期間を少なくしている
2試験目 本剤77.8時間、プラセボ 83.9時間
つまり、効果なし

 

3)タミフルとの比較試験 主要症状罹患期間の中央値
本剤 63.1時間 タミフル 51.2時間
つまり、タミフルより若干効果が落ちる

 

4)他に海外での第II相試験
プラセボと比べて優位な効果なし!

まとめると、動物実験での効果と比べると、人では思ったほどの効果は出ていないことになります。また、ほとんど投与量の総量は変わらないのに効果に違いが出ている理由が不明です。

 

ド作用
どんなに素晴らしい効果を認めても重大な副作用のあるものは薬として使う事はできません。

 

この薬は、まず、いくつかの動物実験では、重大な副作用である催奇形性を認めています。催奇形性とは、妊婦が服用した時に胎児に奇形がおこる危険性のことです。人への臨床試験では、全体の約20%に副作用が認められ、血中尿酸増加、下痢、好中球減少、肝機能障害などで重大な副作用はみられません。

 

Δ海量瑤了藩僂亡悗靴董∋笋考える問題点を挙げてみます
・催奇形性がある またそのために劇薬に指定されている
妊婦には使用できません。精液中への薬物の移行も報告されています。

 

理論的には副作用が出にくいことが期待されているにもかかわらず、動物実験では重大な副作用である催奇形性がみられています。理由は不明ですが、人の発生段階においては、出生してからとは異なり、この薬が関係するまったく予想されていないしくみがあるのかもしれません。

 

・動物実験での良好な結果にもかかわらず、臨床実験では思ったほどの効果がみられない

この薬は、他のインフルエンザ治療薬と同様に症状の出る期間をせいぜい半日ほど短くする効果しか得られていません。すべてのRNAウイルスの中で最も高い効果が期待できるインフルエンザウイルスでの効果がこの程度なら、他のウイルスへの効果はさらに低くなると考えられます。

 

・RdRPはヒトには存在しないと考えられていたが、最近、人でもDdRPの一部にRdRP様の働きをするものが見つかっている。
https://www.jst.go.jp/pr/announce/20090824/index.html
この酵素は人の寿命に関与するテロメアの合成に関係していると考えられていますが、詳しくは分かっておらず、この薬による影響も不明です。

 

・この薬は、理論的にはウイルスのRdRPにだけ作用し、人のポリメラーゼには関与しないと考えられてるが、実際には人ポリメラーゼα(RNA合成の始まりに関与)、β(DNA修復に関与)、γ(ミトコンドリアDNAの複製に関与)に対してそれぞれ0%、9.1〜13.5%、11.7〜41.2%の阻害作用を認める(添付文書より)。

 

ポリメラーゼは、すべての生命活動の根幹である遺伝子の働きに作用する薬であるため、これらの阻害作用により通常の細胞機能に対してどのような影響があるのか不明です。

 

Д侫.咼團薀咼襦幣ι別哨▲咼ン)に対する現時点での私の考えのまとめ

以前の記事にも書きましたが、インフルエンザ治療薬(商品名タミフル、リレンザ、イナビル、ラビアクタ)はどの薬も大差なく症状を約1日ほど短くする程度の効果です。
https://www.facebook.com/shinjiro.homma/posts/2272471113077895

 

今回紹介したファビピラビル(商品名アビガン)も、現在の投与量では、今までのインフルエンザ治療薬と同等の効果と考えられます。しかし、今回の新型コロナウイルスに対しては、高齢者や基礎疾患を持つなどリスクの高い人、入院以上の重症例に関しては投与を試みる価値が十分にあると思います。

 

今のところ臨床的な効果は限定的ですが、理論的にはとても効果が期待できる薬剤なので、投与量を増やしたり、それぞれのウイルスに対する特異性を高める改良を行うことなどにより、効果を高められる可能性がある薬剤だとは思います。

 

補足
最後に、自然派の医師の立場から一言意見を述べさせていただければ、感染症を始め全ての病気は、自分の外側に結果を求めるよりも、自分の内側による影響が大きいのではないでしょうか。

 

もちろん、原因である病原体が入ってこなければ感染症は発症しませんが、それはスイッチにすぎません。例えば、何かの感染症にかかった時、それが軽く済むのか、重症になるのか、命にかかわるのか、合併症が出るのか出ないのかなどは、自分がどのような状態にあるかにより決まるのではないでしょうか。

 

時には薬などの西洋医学を含めた治療に頼ることも必要になりますが、最大の対策は普段の日常生活(食、生活、メンタルなど)を整えることだと思います。

 

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